【ヒトとトキ♯03】クリエイティブディレクター 中村英隆さん「公私のメリハリがない、生っ粋のワーカホリックです」

その業界の第一線で活躍する仕事人の時間術・仕事術をお伺いする企画「ヒトとトキ」。今回は、昨年電通の新制度「ライフシフトプラットフォーム」を使って、約20年務めた電通を退社し、自身の会社ASTERISKを設立したクリエイティブディレクターの中村英隆さんにご登場いただきます。

 

Indeedやアサヒ飲料、富士急などの広告を数多く手がける一流のクリエイターの時間管理や仕事への考え方を伺います。

企業の課題を発見し、クリエイティブな手法で解決する仕事です

 

ーークリエイティブディレクターのお仕事について教えてください。

中村英隆さん(以下、中村さん) 映像やグラフィック・デザイン、イベントといった表現方法を使って、企業の商品やサービスをPRする仕事です。ただ、僕はそれだけでなく、企業が抱える課題を発見し、解決するソリューション業も多く行っています。企業がイノベーションを起こしたり、新しいサービスをつくったりするとき、中の人たちだけではできないことをクリエイティブベースで行って成功事例をつくる。そうしたお手伝いをしています。

ーー電通のライフシフトプラットフォームを利用した仕事の仕方についてもお聞きしたいです。

中村さん 僕の会社であるASTERISKは、電通が出資するニューホライズンコレクティブ合同会社(以下、NH )と業務委託契約を結んでいて、10年間一定の業務を提供し、報酬が支払われます。また、NH経由で新しい業務が発生した場合、事業利益は、NHにある割合で還元。ASTERISKにはインセンティブ報酬が支払われます。段階的に、インセンティブ報酬の割合が増えていくという仕組みです。

ーー中村さんは「電通の社員」から「ASTERISKの代表取締役」に肩書きが変わりました。心境の変化ってありますか?

中村さん 変わりましたね。電通時代は、良くも悪くもクリエイティブディレクターの仕事に専念できましたが、今は「会社を大きく、良くするには」という視点が生まれ、人を雇うことの大変さも痛感しています。

ーースタッフを雇う予定があるのですか?

中村さん 事業が軌道に乗って人を雇うステージになってから、ですね。今は個人事業主に近い状態です。お酒を飲むのが好きで銀座のバーのオーナーも始めたのですが、コロナ禍により「いつオープンできんねん」という状況で。バーテンダーを雇うこともできず、とりあえず事務所として使っています。

ーー日々の業務は、銀座のバー兼事務所で?

中村さん 銀座と自宅の仕事部屋ですね。ほかに、ドリルというクリエイティブ・エージェンシーの仕事場を使うこともあります。ドリルとはパートナー契約を結び仕事をしているので、「オフィスを自由に使っていいよ」と言っていただいています。

1日7本連続、トイレ休憩のみでリモート打ち合わせの日も

 

ーーそんな中村さんの1日のスケジュールが気になります! この表に書いていただけますか?

中村さん あ、はい。やってみましょうか! う〜ん、そうですね、だいたい24時に寝て7時に起床。意外と7時間くらいは寝てるんです。その後、シャワーを浴びて、紅茶やコーヒーを飲んでぼーっとします。9時半始業の電通に合わせてメールチェックを始めて、以降はずっとリモート打ち合わせ。午前中に2本と午後2本くらいで、60分から90分単位が多いですが、30分ほどバッファを見て予定を立てています。本当は合間にメールチェックや休憩とかを入れたいんですが、できないことも多いですね。昨日は10時から21時半まで、7本の打ち合わせをずっと同じ場所でしてました。途中、トイレ休憩があっただけで、昼食も取れず。ざっとですが、こんな感じですかね?

 

 

ーーすごいハードですね! 夕食後のスケジュールは?

中村さん 子どもが18時から19時に夕ごはんなので、家にいるときはできれば一緒にとるようにしています。その後、打ち合わせが入らなければ、次の日の準備に充てることが多いです。ここがインプットの時間で、仕事の調べものや勉強をしたり、仕事に関係する映画を観たり。次回の打ち合わせのディレクションについてメールすることも。状況によっては、18時から24時までクライアント候補の人やプロダクションの人と会食することもあります。飲んで話をしながら新しい仕事が生まれたり、仕事が前に進んだりするので。ただ、会食が入ると、インプットの時間がなくなってしまうので、翌日の隙間時間にちょこちょこやります。

ーー平日は毎日そんな感じですか? 週間のスケジュール表も用意しているので、ぜひ書き出してほしいです!

中村さん 撮影が入らない日はだいたい毎日こんなスケジュールです。あ、でも1カ月に一度くらいは、クライアントやプロダクションの方とゴルフに行くこともあります。週間スケジュール表に書いてみると、こんな具合です。

 

 

ーーえっ、ゴルフの後も打ち合わせ入れたりするんですね。

中村さん そうですね。ゴルフ終わりの17時くらいからリモート会議が入ることも多く、人の車に乗っているときは、スマホで背景を消して、イヤホンしながら打ち合わせすることもありますよ。だけど、ゴルフのプレイ中は集中したいので電話には出ませんよ。事前に「終日撮影なんです」って伝えてるので、そこは大丈夫なんです(笑)。

 

 

ーーこの記事を見た人には、ゴルフだってバレてしまうかもしれませんね(笑)。ちなみに土日は休めるんでしょうか?

中村さん 打ち合わせや撮影が入らなければ、土曜は休んで何も考えずゴロゴロしますね。日曜日はお昼くらいから、嫌々仕事を始めます(笑)。その週にできなかったTo Doリストが死ぬほどたまっているのでそれを消化したり、月曜日からの仕事の準備をしたり。ただ最近、準備をそこまでしなくても何とかなるようになってきましたけど。

ーー「何とかなる」っていうと?

中村さん 「これは時間をかけて考えないと」という仕事もあるんですが、それ以外は培った経験値からディレクションできるから準備がほぼいらなかったりするんです。判断力がモノを言う仕事でもあるので。たとえば、オリエンを受けるときは、資料を読むと同時にメンバーへの指示を考えて、企画もその場で考え始めて、ディレクションするといった感じです。

ーー打ち合わせが押して、次の予定に支障をきたすことはないですか?

中村さん 「次の打ち合わせがあるんで、じゃあ!」と切り上げることがほとんどです。最終的に僕がジャッジさえすれば、途中の作業はスタッフがちゃんとやってくれます。一から十まで自分でやっていると人は育たないし、自分の時間もなくなってしまうので。こんな感じで10本くらいのプロジェクトを並行しています。

「案件ごとに費やした時間」を見える化できるアプリを活用

 

ーースケジュール管理って、どんなツールを使っていますか?

中村さん 日々の予定は、Outlookの「予定表」で管理。クライアントごとに、色分けして予定を入力しています。僕の予定表は、仕事をしているメンバーに公開しているので、スケジュールを握られているような感じ(笑)。予定表に空きがあると打ち合わせの予定が次々入るので、企画の作成に必要な時間は「作業」と入力して、あらかじめ時間を確保するようにしています。

ーーほかに、仕事をするうえで活用しているツールはありますか?

中村さん 時間管理ができる「Toggl Track」というアプリを使っています。起業してすぐ、どのプロジェクトに何時間費やしたかを把握したくて使い始めました。作業にかかった時間を入力すると、1週間などの期間で、プロジェクトごとの作業時間の割合が円グラフに可視化されるんです。

ーー報酬の高い案件に時間を割くよう時間管理をして、売り上げを上げるためですか?

中村さん そうですね。たとえば1日7時間、月20日働くとしたら、実働は140時間。自分の時給を1万円と設定しちゃうと、電通時代の年収には達しないんです。ボーナスも社会保障もありませんからね。「成功=高年収」ではないですが、起業したからには電通時代の年収より稼ぐことが目標。だから、時給1万円以上が成り立つフィーでクライアントに交渉するときの材料としても「Toggl Track」は役立ちます。もちろん、フィーが低くても「経験したい領域なのでやります」ということはありますが、サステナブルではない。今は、双方にとってWin-Winの報酬システムを模索しているところです。

仕事をやればやるほど、アウトプットまでの時間が短くなるんです

 

ーー中村さんへの依頼は引っ切りなしだと思いますが、どんなに忙しくても仕事を入れてしまうタイプですか? もしくは、忙しすぎてクオリティが担保できないと思ったら断るタイプですか?

中村さん どちらかというと、仕事は断らないですね。忙しくなってアウトプットのクオリティが下がることはないんですが、パフォーマンスが下がることはあります。これは電通時代からの課題ですね。電通時代には打ち合わせを2件同時にやって、2つの会議室を行き来していたこともありました。でも、僕のようなクリエイティブ職は、仕事をすることがインプットになる。会議でいろんなプランナーのアイデアに触れるほど、さまざまな考え方が蓄積でき、それをどこかで応用できるんです。めちゃくちゃ仕事をすると経験値も溜まって、アウトプットまでの時間が短くなり、結果、仕事が速くなる。10年前とくらべたら、今は同じ時間で2倍の仕事ができていると思います。

ーー多忙極まりない生活だと思いますが、体力維持ってどうしていますか?

中村さん それも課題で、最近体力をアップするためにロードバイクを買いました。銀座のバーから自宅まで13km40分ほど自転車で帰ったりしています。

仕事でもプライベートでも「考える習慣」を持つことが大切

 

ーー中村さんの仕事時間との付き合い方をひとことで言うと?

中村さん 「公私のメリハリがない」です。プライベートと仕事の境界がなくて。そんな感じで、20年以上やっています。仕事が好きでおもしろいから、いくらでもやってしまう。そもそもがワーカホリックなんです。たとえば、映画を鑑賞しても、さまざまな分析をしちゃうから仕事をしているようでもあるし。何が仕事で何がプライベートか、自分でもわからないんですよ。

ーー仕事が嫌になることってないんですか?

中村さん ないですね(キッパリ)。常に仕事が好きだから、ストレスにならないです。嫌なことやトラブルはいっぱいありますけど、逃げ出したくはならない。やらなきゃいけないタスクにうんざりしても、取りかかると楽しくなりますし。考えるという作業そのものが好きなんですよ。

 

Profile

中村英隆(なかむらひでたか)

クリエイティブ・ディレクター、一級建築士。2000年に電通入社。 コピーライター、CMプランナーを経て、クリエーティブ・ディレクターに。IndeedCMや相鉄の記念ムービー「100 YEARS TRAIN」を手がける。ACCゴールド、広告電通賞 最優秀賞など多くの受賞歴を誇る。2020年に電通を退社し、株式会社ASTERISKを設立。

Twitter:https://twitter.com/nakamuman

 

撮影/酒井恭伸 取材・文/川端美穂(きいろ舎)