個人の時間を売り買いできる「タイムチケット」が会社設立のきっかけに
――現在のお仕事の内容を教えてください。
加来幸樹さん(以下、加来さん)
――元々はセプテーニでクリエイティブディレクターをされていたのですよね。なぜ起業することに?
加来さん
――そうなんですね。実際に「タイムチケット」でサービスを始めてみてどうでしたか?
加来さん
広告よりももっと根本的なアイデンティティの部分を、クライアントと一緒につくる。そういう会社があってもいいんじゃないかと考え、セプテーニグループの新規事業プランコンテストに応募して会社を立ち上げました。
――仕事のどんなところにおもしろさを感じていますか?
加来さん 相手にとって一番大事な本音や覚悟を聞かせてもらえるところですね。僕はそれでお金をいただいているけど、逆に僕がお金を払ってもいいと思うくらいの刺激やインプットになっていて。「いい声」で生きる人が増えるのは単純に喜ばしいことですし、そこに関与できるのは幸せなことだなと思っています。
「Work」と「Life」を区切らず、予定を柔軟に組み替える
――そんな加来さんの1日と1週間のスケジュールを知りたいです! タイムスケジュール表を用意したんで、ちょっと書いてもらえますか?
加来さん
加来さん ……と書いてみたけど、やっぱりなんか違う気がしてきました(笑)。10時〜19時の間に髪を切りに行ったり運動したりすることもあるし、逆に忙しいときは朝や夜に仕事をすることもあるし、本当に日によってバラバラで。こうして見ると、線にも迷いが表れていますね。なので、ちょっと書き直してみてもいいですか?
――おお! もちろんです。
加来さん
――本当ですね。とはいえ、「これだけは欠かさない」という行動はないですか? 1日のルーティンのような。
加来さん そうですね。朝に青汁を飲むことくらいですね。健康のために。
――運動もされているようですし、健康に気を使っているんですね。
加来さん はい……ただ、青汁を飲むことと運動だけは最低限やって、それ以外すべてが不健康という感じかもしれませんね(笑)。
2分以内でやれる作業は、“すぐやる”
――ミーティングなどのスケジュール管理や、タスク管理にはどんなツールを使っているんですか?
加来さん
社会人になって最初の頃の上司に、GTD(Getting Things Done)というタスク整理術を教わりました。簡単に言うと、頭の中にあるものを一旦全部リストとして書き出して整理し、いま着手すべきタスクを実行するというものです。ポイントは、「2分以内でやれるものはすぐやる」こと。その上で、スケジュールが迫っているものや重要度の高いものなど、優先順位を決めていきます。
「肩書きが外れる時間」を大事にしている
――1週間の中で、大事にしている時間はありますか?
加来さん
――肩書きが外れる時間、というと?
加来さん
目指すのは、「0秒納品」
――そういう時間はどうやって確保していますか?
加来さん
――あぁ、めちゃくちゃありますね、そういうこと。
加来さん
――えっ。0秒ですか……!?
加来さん
セプテーニで働いていたときには、良い仕事をするにはその分たくさんの時間をかけなければならないという思い込みのようなものもあったかもしれません。でも、タイムチケットを通して「30分で成果を出す」経験を重ねて、それまで当たり前だと思ってきた仕事の進め方に疑問を抱くようになったんです。このやり方は本当に生産的なのだろうか? 短時間で良い仕事をすることって本当に不可能なのだろうか? と。
人に会う時間の質を、どれだけ高められるか
――でも、そういう意識を持っていても、なかなか実現するのは難しい気がしてしまいます。
加来さん
――たしかに、「リモートで逆に忙しくなる現象」、ありますね。ちなみに加来さんは「この時間で完結させる」というこだわりを持つことによって、それまでと比べてどれくらいパフォーマンスが向上しましたか?
加来さん う
いま僕が重視しているのは、「肩書を取っ払ったときに自分でいられるか」「どういう時間の使い方ができていたら自分は幸せなのか、豊かだと思えるのか」ということ。それを実現しようとすると、「やりたいときにやるべきことをやる」ほうがバランスが取れるし、その上でステークホルダーの期待を超えるためには、より短い時間でより高いパフォーマンスを出せるようにならないといけない。
時間は有限。だからこそ、使い方は無限大
――加来さんのような仕事をしたい方に向けて、「時間の使い方」のアドバイスをお願いします。
加来さん 「常識を疑え」でしょうか。これまで話してきたことと重なりますが、自分がいる業界や会社で常識とされている考え方ってあると思うんです。「企画書は1時間で完成するはずがない」とか、「こういうプロジェクトなら4〜5回は打ち合わせしないといけないだろう」とか。それに対して、「本当にそれって必要なんだっけ?」と疑ってみる。
反対に、「この程度のプロジェクトで顔合わせなんて必要ない」とか、「スライド1枚にこんなに時間をかけちゃいけない」といったことに対する疑いを持つことも大切です。時間をかけることが必要なときもある。要は、本当に大事なところに時間をかけられるように、そのほかの部分を効率化していくということですね。それは、常識を疑うことから始まるのだと思います。
――最後に、加来さんの「時間との向き合い方」を、一言で表していただけますか?
加来さん 「時間は有限。だからこそ、使い方の可能性は無限大」。こちらでいかがでしょう。
――素晴らしいです。この時間に話していただいたことがキレイにまとまっていますね。加来さん、お時間をいただきありがとうございました!
加来幸樹(かくこうき)
1983年福岡県生まれ。九州大学芸術工学部卒業。2006年にセプテーニに新卒入社し、デジタルマーケティングのクリエイティブ領域を中心に様々な顧客の課題解決を支援した後、2018年にサインコサインを設立。「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」という理念のもと、企業理念や個人理念、ブランドのネーミング・タグラインなど覚悟の象徴となるアイデンティティの共創を通じて価値提供を行う。また企業と個人それぞれの理念の重なりの認識を通じた、より良いパートナーシップの動機形成にも取り組んでいる。
https://www.signcosign.jp
撮影/武石早代 取材・文/飛田恵美子