【ヒトとトキ♯12】ANDART代表取締役CEO・松園詩織さん「やりたいことに注力し、自分らしく戦っています」

2019年に日本初のアートの共同保有サービスを提供して以来、急成長を遂げている「ANDART」の代表取締役CEO・松園詩織さんにインタビュー。仕事に忙殺されず、自分らしさを大事にする時間管理、唯一無二の事業を生み出すための工夫について教えていただきました。

自分が本気で信じている未来に向けて、一歩ずつ前進できることが楽しい

ーーまずはANDARTの事業について教えてください。

松園詩織さん(以下、松園さん) 株式会社ANDARTは「テクノロジーで、アートと社会を結び、拓く」をビジョンとして、2018年に創業しました。1つのアート作品をデジタル上で複数人で所有するという、日本初のアートの共同保有プラットフォーム「ANDART」を展開。会員数は2021年6月に1万人を突破しました。また、コロナ禍による住空間へのニーズの高まりから、アートのオンラインストア「YOUANDART」を立ち上げ、運営して1年で作品点数は500点以上となっています。

ーー今年9月、総額2億8,000万円の資金調達を実施したことが話題になりましたし、会社の成長が目覚ましいですね!

松園さん ありがとうございます。さらなる事業加速、組織拡大に向けた経営体制の強化のために資金調達しました。いま、目の肥えたアートのニューコレクターが世界的に増え、アート業界は盛り上がりを見せています。また、コロナ禍以降、オンラインにおけるアート市場は拡大し続けていて、2020年度の世界の美術品のオンライン売上高は、前年度の約2倍の過去最高を記録しました(※1)。

※1:オンラインでの売上高は過去最高の124億ドル、2019年の約2倍に増加/出典:The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2021 『Figure 5.1  The Online Art and Antiques Market 2013–2020』

ーーオンラインでアートを売買したり所有することが当たり前の時代が来るんですね。ところで、いまの仕事の楽しさはどんなところにありますか?

松園さん チームで常に新しいチャレンジができることです。本気で信じている未来に向けて、一歩ずつですけれど、前進しているという感じが実感できる。それが起業して良かったなと思うことです。会社が3期目になって良いチームワークが生まれたので、このチームでさらに新しいチャレンジをしていきたいですね。「アートの共同保有サービスっておもしろい」と思ってくれたメンバーがインターン含め50人ほど在籍していますが、別のイノベーションも考え出せるほどのチームに成長できたと思います。

ーー良いチームワークを生むために、心がけていらっしゃることは?

松園さん 自分が無理をしないことでしょうか(笑)。つまり、等身大で、時には弱みもさらけ出しながらみんなで遠くに向かっている感じですね。キリッと万能なかっこいい社長像に憧れはあるのですが、私は得意不得意のふり幅もすごいほうだと自覚していますし、自分の身の丈に合わないことをするとうまくいかないと思うので。私のほうがみんなに支えてもらっています。

24時間仕事のことが気になるから、一度起きてチェックします

ーータイムスケジュール表を用意したので、1日のスケジュールを書いていただけますか?

松園さん えーっと。深夜1時から7時くらいまで寝て……。最近はそれから一度目を覚まして「何か起きていないかチェック」して、また「二度寝」します。

ーーえっ!? どういうことですか?

松園さん そういう期間に入ると、ずっと興奮状態なのか仕事の連絡が気になって目が覚めちゃうんですよね(笑)。深夜のこともあるんですけど、一度起きてメールやSlackを一通りチェックします。たとえば、「昨日交渉した高額ディールの返事が来てないかな」とか。トラブルだけでなく、ポジティブなことも含めて、仕事の動向が気になるんです。そうこう言っているうちに、書けました! だいたいこんな感じです。

ーーありがとうございます! 朝食前のミーティングは何を行うのですか?

松園さん 今日は社外の人とオンラインでアートプロジェクトのミーティングでした。その後、Twitterのタイムラインなどを見ながら、世の中の生の情報を収集します。朝食後は10分間、オンラインで社内の朝会と定例会を開きます。朝会は、ヨガを教えられるメンバーが講師になって、朝ヨガをすることもあります。

ーー仕事はご自宅でされているんですね。

松園さん 自宅とシェアオフィスを利用しているのですが、10月から白金台にギャラリー兼オフィスを立ち上げる予定です。それから、10月はオーナーさま限定で、年に一度の共同保有作品の鑑賞会の開催を予定していて。今年は寺田倉庫で行うのですが、その準備とオフィスの新設が重なって、いまバタバタしています(笑)。

ーーアート市場の動向や展覧会の予定などはどうやって情報収集をしているのですか?

松園さん アートの専門知識が豊富なメンバーで編成したチームが社内にあるので、彼らからの毎週の情報共有があります。「この個展は絶対行ったほうがいいですよ」と教えてもらったり。単純に個人的に展示を見たいから行くこともありますし。ギャラリー訪問は1日に3軒ほどですが、コロナ禍で展覧会も少なく、いまは鈍化気味でさみしいですね。

1日2時間の「未来について思考する時間」を大切に

ーー1日のなかで、会議やギャラリー訪問など人と接する時間が多いですね。

松園さん 人と接する時間が多いからこそ、21時から23時に1人になって「考える時間」を大切にしています。ここでは、会社の5年、10年先について考えます。大きな仮説がうまくいかなった場合に、Bパターンはあるのかとか。ただ、打ち合わせや業務の確認などに忙殺されている現在のスケジュールは、創業して3年という会社のフェーズ的に自分自身が手を動かしたり、行動量を増やすタイミングだからやむを得ないとはいえ、理想的な経営者の時間管理ではないと思います。忙しい日々の中でも、こういったゆとりある時間を過ごせているので、ストレスの少ない自分らしい良いペースを掴めているんだと思います。

ーー思考やアイデアは紙に書いたりするんですか?

松園さん  家にホワイトボードがあるのでそれに思考やアイデアを書いてます。ホワイトボードがあると言うと驚かれるのですが、10年近くずっと家で使っていて。書いて思考を整理するのが好きなので、私にとっては必需品です。

ーー未来について思考する時間が欠かせないんですね。

松園さん ビジネスにおいて、思考量ってすごく大事だと思うんです。誰かを説得したりアイデアを発表するとき、思考量が多ければ多いほど、話の根拠もしっかりしてくる。どういう文脈でなぜこう思ったのか、話す言葉一つひとつにその人の思考量が詰まっていると思います。

無心で料理をすることが仕事の息抜きです

ーー1週間のスケジュールのご記入もお願いします。趣味などはあるんでしょうか?

松園さん 私、あまりないんですよ。ラーメンが好きで、週1〜2回はラーメン屋さんを訪れているくらいで……。あっ、ごはんをつくるのが大好きで、料理がストレス解消法です。得意なのはしょうが焼きやオムライス、ハンバーグ、町中華的なチャーハンとか(笑)。週に34回、レシピなどは見ず、音楽や聞き流せるコンテンツをかけながら無心になって料理をするのがすごく楽しいんです。仕事では左脳を、料理をするときは右脳をメインに使っている感じがします。最近結婚したので、これからは夫の分も作るのが楽しみです。

ーーご結婚おめでとうございます! お相手のことを聞いてもいいですか?

松園さん 2年半ほど前から友人だった起業家の方です。お互い経営者として心から応援し、支え合うことができる大切な存在です。

ーー素敵ですね。それでは、松園さんのような起業家を目指す人へアドバイスをいただけますか? 

松園さん アントニオ猪木さんの名言の一節「迷わず行けよ。行けばわかるさ」ではないですが(笑)、考え過ぎるとなかなか起業できないと思うので、恐れずにトライしてみることが大事かと。私自身、起業するときにアートやビジネス界隈の人たちから、無謀だからやめたほうがいいと止められました。でも、「スタートアップが無謀なことをやらなくてどうする。誰もやったことがないからこそ挑戦したい」と起業し、ひたすら粘り強く取り組んでいます。

ーー最後に、松園さんの仕事時間との付き合い方をひと言で表すと?

松園さん 自分らしく戦うこと。ただ、がむしゃらに仕事をこなすのではなく、自分に無理なく仕事することが結果的に良いパフォーマンスを生むと思っています。ありがたいことに優秀なメンバーたちのおかげで、自分のやりたい仕事に集中して、休みたいときは休むというメリハリがある時間の使い方ができるようになってきました。

 

Profile

松園詩織(まつぞの しおり)

1988年生まれ。神奈川県出身。株式会社ANDART 代表取締役社長CEO2014年に株式会社サイバーエージェントに入社し、新規事業責任者として企業のデジタルマーケティングなどに従事。その後東京ガールズコレクションを運営する株式会社W TOKYOでは、社長室として大手企業、行政、国連との取り組みなど多岐にわたるプロジェクトの企画運営に携わる。20189月、株式会社ANDARTを設立し、2019年にアート作品を複数人で保有できる共同保有プラットフォーム「ANDART」をローンチ。2021年9月に2.8億円の資金調達を実施し、さらなる事業加速と組織拡大に向けた経営体制の強化を図る。

ANDART HP:https://and-art.co.jp/
松園さんのTwitter@shiorimatsuzono


撮影/武石早代 取材・文/川端美穂(きいろ舎)