代々木上原にあるフレンチレストラン「sio」のシェフであり、経営者でもある鳥羽周作さん。現在はグループ5店舗の経営に加え、テレビ出演やSNS、企業とのコラボレーションなどと活躍の場を広げ、今もっとも勢いのある人物です。
その業界の第一線で活躍する仕事人の時間術・仕事術をお伺いする企画「ヒトとトキ」。今回は、多忙を極める鳥羽さんの時間の使い方から、経営術、枯れることがないクリエイティビティの源までお聞きしました。
料理も経営もクリエイティブに
――鳥羽さんはシェフでもありながら、経営者としての一面もお持ちですが、経営者として目覚めたきっかけはありましたか?
鳥羽周作さん(以下、鳥羽さん) レストランの「sio」を立ち上げてから、日々お店を営業していく中でさまざまな課題に向き合っていくうちに、経営について知らなくてはならない状況になったので必然的に学んでいきました。料理と同じように経営も経験の積み重ね。そう日頃から感じていたので、創業当初から「シェフ」と「経営者」の線引きはしてなかったです。
――「シェフ」と「経営者」の両立は難しそうですね。
鳥羽さん そうですね。ただ、経営という仕事も事務作業として捉えるか、クリエイティブとして捉えるかで全然違うと思うんです。「どうやったらお客さんを喜ばせられるか」という観点から見ると、料理も経営もクリエイティブにできると確信しています。
例えば、InstagramやTwitterなどSNSの運用も、バズったことで店舗の売り上げがアップするなら経営者として取り入れた方がいいツールですよね。こうした小さな積み重ねから、「単純にお金の勘定だけじゃないんだな」「経営ってもっとクリエイティブだな」って気づいて、どんどん経営というものが楽しくなっていきました。
――経営がクリエイティブという発想は鳥羽さんらしいですね。働く上で大切にしているモットーはありますか?
鳥羽さん 「sio」のKPIは、「人を幸せにする」というシンプルなゴール設定をしています。判断基準は損得ではなくて、どれだけ「愛」を持って働くか。お店づくりや料理はもちろんですが、細かなところでいうと、スタッフにはメールの返信はすぐに返すことを徹底。もしその時が忙しい場合、「後ほど確認しご連絡します」と返信すれば、相手は安心しますよね。ちょっとしたことですが、この思いやりがあるのとないのでは関係性は違ってくると思ってます。
――なるほど。愛を持って人に接することが大事だということですね。
鳥羽さん その通りです。どんなに忙しくても相手への愛があれば、丁寧に対応できるはずだと思うんです。僕の原動力は、大いなる愛です。結構「sio」では、恥ずかしがらずに愛を連呼するんですよ(笑)。
隙間時間にSNSチェックがルーティン
――超多忙を極める鳥羽さんの1日と週間のスケジュールを知るために、タイムスケジュール表を用意しました! ぜひ教えてください。
鳥羽さん え~折田さん(マネージャー)! 僕のスケジュールってどうなってる?
――ご自分で把握していないところがまさに超多忙ですね……。
鳥羽さん ここ最近ちょっと忙しくなっちゃったんで、明後日の予定も聞かないようにしてるんです。先の予定知ったら吐いちゃうんで(笑)。だから仕事の帰りに、マネージャーに「明日何時に集合?」って聞いて明日の予定を確認してます。
――目まぐるしい日々をお過ごしなんですね。ますます鳥羽さんがどんなスケジュールで1日を過ごしているのかが気になります。
鳥羽さん いえいえ、そんなたいしたことないですよ。だいたいの1日を書き出してみましょうか。まず朝7時に起きてメールとSNSチェック、9時~11時が移動&出社。移動時間もメール返信しています。11時~15時で打ち合わせ、撮影、試作、お店に出るときもあります。15時~17時がお昼か取材かジム。17時~20時営業、会食など。20時からはYouTube撮影や社内定例。帰宅してからも各店の報告、個別打ち合わせ、寝る前にSNSチェックして3時くらいに寝てます。
――うわっ……。おっしゃる通り、これは吐きそうなくらい多忙ですね。ちなみに週間のスケジュールはどんな感じですか?
鳥羽さん だいたい毎日同じですが、ちょっと書いてみましょうか。営業報告にミーティング、打ち合わせ、お店の営業、取材・撮影、試作……。って、これヤバいっすね(笑)。とくにいま、忙しい時期というのもあるんですけど。
――予定がギチギチですね。スケジュール管理はなにを使っていますか?
鳥羽さん 「googleカレンダー」を使ってます。スケジュール管理はすべてマネージャーに任せていますが、どんなに忙しくても本当によく調整してくれてます。
――日々の中でリフレッシュの時間ってあるんですか?
鳥羽さん 2週間に1回、原宿の「らふる」という床屋に行ってますね。ファブリック類にとてもこだわっていて、行くだけでもリフレッシュできるんです。
――スケジュールを拝見すると、忙しい中でもSNSチェックは常にしていますよね。Twitterのコメントにも細やかに返していますし。
鳥羽さん コメントを返すのは、実はすごい重要。リツイートばかりしていると「俺すごい人気あるだろ」って自分自慢に見えてしまう可能性があるので、コメントしてくれた人には基本的にはリプライでお返しすることにしているんです。コメントしてくれること自体が本当に嬉しいし幸せなことので、なるべくお返しさせていただきたい。だから隙間時間を使って、こまめにチェックしています。
――SNS運用って、どこかで勉強したんですか?
鳥羽さん 独学です。寝る前にSNSをチェックしてインプットしたりと、やっているうちに肌感で覚えていきました。コメントの返信のほかに、実は投稿時間も気を配っているんです。先日、Twitterでマクドナルドのアレンジレシピを投稿したんですが、休日にファミリーの方に楽しんでいただきたいと思ったので、、GW前の金曜の夕方に投稿しました。実際に「家族で食べました」っていう反響もあったし、喜んでくれた人がたくさんいて嬉しかったです。
アイデアは即日実行! 移動も大切な時間
――SNSマーケティングを感覚で覚えたのが驚きです。移動中にも仕事してるんですね。
鳥羽さん 移動時間は貴重な時間。朝の通勤時間は電車の中で、メールやSNSの返信しています。たまに新しいアイデアが思いつくこともあります。代々木上原の「sio」で始めた「朝ディナー」(※朝からコース料理が楽しめる新サービス)は、朝の電車で思いついてTwitterに投稿したら、反響があったので「それならやるか!」と即決定。社内のグループメッセンジャーに朝ディナー始めることを連絡すると、その日の夜に予約フォームができて、次の日には予約できるようになりました。
――すごい早さですね。コロナ禍になってテイクアウトも早い段階で始めていましたよね。
鳥羽さん そうですね。僕らはアウトプットがめちゃくちゃ早いんです。猛スピードでプロジェクトがどんどん進んでいきます。最近テイクアウトの容器をわっぱに変えたんですが、その時も実質2日くらいで用意したかな。丸の内の店舗に行った時、たまたま立ち寄ったデパ地下でわっぱ弁当を見つけて、いいなと思って翌日に包材を揃えてすべての店舗の弁当をわっぱに変更。2日後にはその仕様で販売していましたね。
―― スピード感もすごいですが、みなさんの行動力も圧巻ですね。この結束力はどうして生まれるんですか?
鳥羽さん 会社を設立して3年ですが、やると決めたことには全て結果を出してきました。自分の言ったことはないがしろにしない。要はしつこいんですよ(笑)。あとは戦略的とか関係なく、「絶対に成功させる」っていう覚悟の問題ですね。だから信頼してもらえるし、スタッフの反射神経がよくなっているのかなと。
あと、「sio」で働きたいという人は採用しないんです。僕たちの会社は「sio」以外の店舗も経営しているし、これから僕たちがやりたいのはファミレスなど、料理界にポップを作ること。
――あと、鳥羽さんの着眼点のユニークさにも驚かされます。視野が広くて、いろいろなところに目線を持っているような印象です。
鳥羽さん 料理人を始めたときから3つのことを同時に考える訓練を行ってきました。忙しくても自分の仕事をしっかりできるように始めたんですが、それが染みついているので、普段からふとした瞬間に点と点が繋がって、ポンってアイデア生まれるんです。スタッフと会議をするときも、頭の中で同時にほかのことも考えているので、突然面白いことが頭に浮んでしまって。それを会議でいきなり発言するもんだから、周りがきょとんとしてるなんてこともしょっちゅうで(苦笑)。自分の頭の中ではすべて線で繋がっているんですけどね。
食の可能性は無限! 新会社「ジズる」を設立
――4月に新しい会社を立ち上げたと聞きました。それについても教えてください。
鳥羽さん:「シズる株式会社」という名前の食のクリエイティブカンパニーです。クリエイティブパートナーに博報堂ケトルさんを迎えて、「料理は、クリエイティブで、もっとおいしくなる。」をコンセプトに、飲食の新しいビジネスモデルやアウトプットの可能性を提案していきます。いま、いろいろと構築中なのですが、合言葉は「それ、シズってる?」。すでにおもしろそうでしょ?
――おもしろそう~! 聞いただけでワクワクしました。鳥羽さんのクリエイティブは今後もっと加速していきますね。
鳥羽さん クリエイティブのプロとする企画会議は、毎回本質のかなり深いところまで潜るので刺激ばかりです。新しいことをこれからどんどん仕掛けていくつもりなので、僕自身ものすごく楽しんでいます。
――これからますます多忙な日々が続きそうですね。
鳥羽さん そうなりそうです(笑)。今回スケジュールを書き出してみて、改めて見直してみたら、マジヤバイですね(笑)。いつ寝てるんだろ……。今は「シズる」を絶賛構築中なのでとくに忙しい時期ですが、毎日すごく楽しいです。
スタッフやその家族が健全に安心して暮らせるお金が持続的に入ってくる仕組みを構築し、僕なりに飲食業界に新しい風を吹き込むことできればと願っています。
――鳥羽さんの時間の使い方を一言で表すなら?
鳥羽さん 「人に合わせる」ですかね。いろいろなモノや人に合わせてスケジュールを組んでいるので。自分マターでスケジューリングできてないですが、いまとても充実していますよ。
――最後に鳥羽さんのようなシェフ・経営者を目指す方にアドバイスをお願いします!
鳥羽さん 時間は有限なので、やるべきことはやるしかないんですよね。時間を効率よく使おうと思わない方がいいかなって。だから部下には「自分で限界決めてるな」ってよく言ってます。限界を設定しちゃうと、キャパが広がらないんですよ。溺れそうになっているとき、どれだけ踏ん張れるかが大事だと思います。もし本当に溺れたら全力で助けるから、今できることに力を出し切っていただきたいです。
鳥羽周作(とばしゅうさく)
sioオーナーシェフ、シズる株式会社代表取締役。1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界へ。2018年、代々木上原にレストラン「sio」をオープンし、ミシュランガイド東京で2年連続星を獲得。また、業態の異なる5つの飲食店(「o/sio」「純洋食とスイーツ パーラー大箸」「ザ・ニューワールド」「㐂つね」)も運営。書籍、YouTube、各種SNSなどでレシピを公開するなど、レストランの枠を超えたいろいろな手段で「おいしい」を届けている。2021年4月、博報堂ケトルとチームを組み、食のクリエイティブカンパニー「シズる株式会社」を設立。モットーは『幸せの分母を増やす』
sio:http://sio-yoyogiuehara.com
シズる:https://sizuru.co.jp
Twitter:https://twitter.com/pirlo05050505
撮影/酒井恭伸 取材・文/ワタナベマギー